報恩寺(鳴虎報恩寺) 撞かずの鐘
報恩寺(鳴虎報恩寺) 撞かずの鐘(重要文化財)
平安時代。
◎持田ノ眼◎
「撞くなの鐘」とも呼ばれる。
その昔、この報恩寺の鐘は、朝夕に時を知らせていた。
周辺の織物屋にとっては、その鐘の音が、
一日の始業と終業の合図となっていた。
ある織物屋の織女と丁稚が、
夕方に鳴る鐘は何回鳴るかを巡り、
織女は「九回」、丁稚は「八回」と言い争い、
その日の夕方に鐘が何回鳴るか賭けることになった。
こずるい丁稚は、鐘を撞く寺男に、
「今日だけ鐘を撞くのは八回にして欲しい」
と頼み込み、寺男もそれを引き受けた。
かくして、その日の夕方、鐘は、八回しか鳴らなかった。
自信満々、織物屋で丁稚らと鐘の音を数えていた織女は、
鐘の音が八回で鳴り止んで驚いた。
驚くと同時に、自分が正しいのに、それが覆されたことに対する憤り、
そして、皆の前で恥をかいたことへの情けなさと恥ずかしさ、
様々に交錯する色々な思いに突き動かされたのか、
織女は、鐘楼で、首を吊り、
自ら命を絶ってしまった。
それ以降、織女の怨みが、この鐘に憑依し、
鐘を撞くと必ず不吉なことが起こるようになった。
そこで、織女の往生出来ない御魂を供養した上で、
除夜の鐘と大きな法事以外に、鐘を撞くことを止めた。
もちろん、朝夕に鐘が撞かれることも、
二度と無くなったのである。
平安時代鋳造と伝えられ、
とても美しい姿を見せるこの鐘には、
一人の女性の悲しい想いが込められているのである。
見学する時には、織女のために、
手を合わせて欲しい。
なお、お寺が撞く鐘の数は、
百八が基準となっており、百八を割り切れる数で、
撞かれるのである。